I田「月刊『ウマの気持ち』専属レポーターのI田です」
I田「私は今、栗東の池江厩舎にお邪魔しております」
I田「今回インタビューを行うのは現役最強馬であるオルフェ―ヴルさんです」
I田「では、早速インタビューを行いましょう」
オルフェ「まあ、いいってことよ」
I田「早速ですが質問をさせて頂きたいと思います」
I田「先ず今年の抱負をお伺いしたいのですが」
オルフェ「抱負か……正直言って特にないな」
I田「……そうですか」
I田「オルフェ―ヴルさんは3歳時は4冠を制して年度代表馬にも輝かれましたね」
オルフェ「まあな、もう古い話だ」
I田「その頃はどの様な心境で走られていたのですか?」
オルフェ「そうだな……今思えばあの頃が一番楽しかったのかも知れないな」
オルフェ「正直、俺が一番燃えてたのはあの頃だった」
オルフェ「デビュー当時は競馬なんて糞くらえだとおもってたんだけどな」
I田「確かに、オルフェ―ヴルさんはデビュー戦こそ快勝したものの、その後は少し不振の時期がありましたね」
オルフェ「気持ちの問題だな」
I田「ということは本気で走られていなかったということですか?」
オルフェ「まあ、そうだな」
オルフェ「難しいことはあまり言うつもりはねえ」
オルフェ「でも、そのへんは俺は親父に似たのかも知れねえな」
オルフェ「要はひねくれ者ってことさ」
I田「なるほど」
I田「それは3歳の春頃と考えてよろしいでしょうか?」
オルフェ「ああ」
I田「それは一体どの様な変化だったのですか?」
オルフェ「俺はその頃、1つ気づいたことがあったんだ」
オルフェ「俺が強い走りをして競馬に勝てば次はもっと強い奴と走れるということに」
オルフェ「だからその頃の俺は性にもなく真面目に走ってたよ」
オルフェ「もっと強い奴と走りたい……それがその頃の俺の純粋な思いだったな」
I田「そういったモチベーションがあったからこそ、3歳4冠という快挙を成し遂げられたのですね」
オルフェ「ああ、快挙かどうかは別としてあの頃が俺が一番輝いていた時期かも知れないな」
I田「今はそういうお気持ちでないということですか?」
オルフェ「ああ」
I田「それはいつ頃からそうなったのでしょうか?」
オルフェ「有馬記念だ……3歳の暮れの……」
オルフェ「あの時が一番競馬で走ることにワクワクしていたよ」
オルフェ「同世代で文句なしのチャンピオンになった俺は」
オルフェ「歴戦の古豪と対戦できることに強い悦びと興奮を感じていたな」
I田「実際に有馬記念を走られて優勝されたわけですがいかがでしたか?」
オルフェ「あんまり思い出したくねえが」
オルフェ「ゴール板を先頭で駆け抜けた後に俺の中に残ったのは強い失望と幻滅だけだったな」
オルフェ「正直、ああ、こんなもんなのかっていう脱力感を感じたんだよ」
オルフェ「俺は自分の限界を知りたかった」
オルフェ「それなのに、何となく走って、気づいた時にはもう先頭にいた」
オルフェ「あの瞬間だったな」
オルフェ「あの時、俺の中で何かが終わった」
I田「気持ちが切れたということですか?」
オルフェ「ああ」
I田「気持ちの問題が大きかったということでしょうか?」
オルフェ「そうだな」
オルフェ「あの頃の俺はひょっとすると助けを求めていたのかも知れない」
オルフェ「なぜ走り続けなければならないのか……」
オルフェ「そんな単純な問いかけにさえあの時の俺は答えを見つけられなくなっていた」
I田「阪神大賞典では逸走をされたと思うのですがその時の心境もそのような感じだったのでしょうか?」
オルフェ「そうだ」
オルフェ「本当に誰でも良かった」
オルフェ「俺のことを分かってくれる奴が現れることに期待していた」
オルフェ「だから俺は逸走という誰もが目に見える形でシグナルを発したんだ」
I田「逸走後、オルフェ―ヴルさんの気持ちを理解してくれる方は現れたのですか?」
オルフェ「残念ながら現れなかったな」
オルフェ「俺は自分の気持ちを態度で示したつもりだったのに」
オルフェ「俺を取り巻いている奴らが示した反応はてんでトンチンカンなものだった」
I田「春の天皇賞の走りにもその影響はあったと考えてよろしいのでしょうか?」
オルフェ「ああ」
オルフェ「あの時の俺は完全に走る気をなくしていた」
オルフェ「まあ、尤も、ああいうのが俺の本来の姿なのかも知れないけどな」
I田「なるほど」
I田「何かオルフェ―ヴルさんの中で変化はあったのでしょうか?」
オルフェ「2つ要因があるな」
I田「ほう」
I田「それは一体どういうものでしょうか?」
オルフェ「1つはマウントシャスタだ」
I田「と言いますと?」
オルフェ「俺にとって年下と走るのは初めての経験だった」
オルフェ「そういう意味では俺のプライドがくすぐられる部分があったのかも知れないな」
I田「年下には負けられないということですね」
I田「ではもう1つの要因はなんでしょうか?」
オルフェ「ルーラーシップの存在だな」
I田「ルーラーシップですか?」
オルフェ「ああ」
オルフェ「意外に思うかもしれないが」
オルフェ「俺は奴と意外にウマが合うんだ」
オルフェ「お互い似たもの同士というか」
オルフェ「奴にもひねくれた所があるだろ?」
オルフェ「そういう意味では俺はルーラーには意識している部分があると思うな」
I田「ライバル関係ということですか?」
オルフェ「ははっ、まあよく言えばそうだが」
オルフェ「まあ、俺にとって奴はあくまでも気の合う友人に過ぎないな」
オルフェ「もし俺が本気を出したらルーラーなんか軽く10馬身はちぎるからな」
I田「オルフェ―ヴルさん、さすがの自信です!」
I田「宝塚記念を快勝したオルフェ―ヴルさんはフランスの地に飛びったった訳ですが」
I田「フランスはいかがでしたか?」
オルフェ「悪くはなかったさ」
I田「アヴェンティーノさんが帯同馬として一緒だったと思うのですが」
I田「アヴェンティーノさんはどのような方でしたか?」
オルフェ「優しくて物静かなおっさんだったよ」
オルフェ「年下の俺に色々と気もつかってくれたしな」
I田「尊敬できる人生の先輩という感じでしょうか?」
オルフェ「そうだな」
I田「このレースを見事快勝されましたね」
オルフェ「相手が弱かったからな」
I田「でも負かした相手にはGⅠ馬もいましたから」
I田「しかし本番の凱旋門賞では惜しくも2着に甘んじました」
I田「直線で抜け出した時はそのまま独走すると思ったのですが」
I田「その時はどの様な感じだったのですか?」
オルフェ「凱旋門賞は世界最高峰のレースだと聞いていたし」
オルフェ「俺を脅かすような走りをする奴がいるのかも知れないと淡い期待を抱いていた」
I田「そんな中、オルフェ―ヴルさんを追いかけてきたのは牝馬のソレミアでしたね」
オルフェ「正直、拍子抜けしたな」
オルフェ「まあ、そういうことにしてもいいが」
オルフェ「俺は基本的に紳士だからな」
オルフェ「地元の娘っこに花を持たせてやったんだよ」
オルフェ「少なくとも俺が勝つよりもそのほうが盛り上がるだろう?」
I田「うーん、日本人としては悔しい気持ちしかありませんでしたが」
I田「オルフェ―ヴルさんは流石に達観されてますね」
I田「でもやっぱり個人的にはオルフェ―ヴルさんに勝ってほしかったです」
オルフェ「そうか、あんがとよ」
I田「今度は国内の最高峰レースであるジャパンカップに出走されました」
I田「そしてジャパンカップでは今年のベストレースと呼べるような激しいデットヒートとなりましたね」
オルフェ「まあ、傍から見たらそうかもな」
I田「ということは、あの時もオルフェ―ヴルさんは本気でなかったということですか?」
オルフェ「俺ではいつでも本気で走っているよ」
I田「それは失礼しました」
オルフェ「それはほとんどお前のせいだろ」
I田「いや、まあそう言われてしまうと反論はできませんが」
オルフェ「でも、実を言うとタックルを喰らっとき、なぜか気持ち良かったんだ」
I田「えっ、それは一体どういうことでしょうか?」
オルフェ「あんな気持ちになったのは初めてだったな」
オルフェ「こんな気の強い女を嫁にもらうのもいいなって」
オルフェ「そんなことを考えながら走ってたな」
I田「ずばり、ジェンティルドンナに恋愛感情を抱いたということですか?」
オルフェ「あんまり野暮ったい質問をすんなよ」
オルフェ「その質問に対してはノーコメントだ」
I田「分かりました」
I田「どうもすみませんでした」
I田「最後にお聞きしておきたいことがあります」
I田「オルフェ―ヴルさんはジョッキーと折り合いが悪いことが多いように見えるのですが」
I田「その辺りはいかがでしょうか?」
オルフェ「単純な話さ」
オルフェ「俺の走りを邪魔するような奴が嫌いなだけさ」
オルフェ「ジョッキーなんざ誰でもいいさ」
I田「わたしでもいいのでしょうか?」
オルフェ「ははっ、鞍上で変な動きをしないなら構わないさ」
オルフェ「あとはうちの調教師への営業を頑張るんだな」
I田「分かりました」
I田「オルフェ―ヴルさんと一緒にターフを走れるように頑張りたいと思います」
I田「競走人生の中でやり残したことはもうないのでしょうか?」
オルフェ「あるさ」
オルフェ「一度でいいから痺れるようなレースをしてみたい」
オルフェ「俺の望みはそれだけさ」
I田「誰とならばそういうレースができるとお考えですか?」
オルフェ「ぱっと思いつかないな」
I田「現役馬にはライバルとなりうる様な馬がいないということでしょうか?」
オルフェ「ああ」
オルフェ「絶対に負けることができない何かを背負っている奴」
オルフェ「そんな奴と勝負がしてみたいな」
I田「というとやはり3冠馬になるでしょうか?」
I田「シンザン、シンボリルドルフ、ナリタブライアン、ディープインパクトといったあたりでしょうか?」
オルフェ「まあ、たらればの話だな」
オルフェ「着順なんか関係ねえさ」
オルフェ「自分の持っている力をすべて出し切るようなレースができたら」
オルフェ「そこが俺にとってのゴールになる」
I田「オルフェ―ヴルさん、か、かっこいいっす」
I田「色々なお話を聞くことができて非常に楽しかったです」
I田「今シーズンのオルフェ―ヴルさんのご活躍を期待しております」
オルフェ「まあ、お前もがんばりな」
I田「はい、ありがとうございます」
I田「以上、オルフェ―ヴルさんへの独占インタビューでした」
なるほどI田らしくないと思ったら馬語だったからか
流暢なトーク
面白かったです
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